沖縄のごんさん

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※編集注:こちらは東京在住の方の想い出話です

オレにとってサラリーマンになって最初にやりたいことといえば、行きつけの居酒屋を見つけるということでした。
その頃は女でも一人飲み歩きが流行っていたので、オレもそういう店を探したかったんです。
一杯飲んで少しつまみをつまんで帰る、小さな飲み屋。

オレは色々と歩いて探していました。
最初に行ったのは、おしゃれなワインバーでした。
ワインが好きだからと入ったものの、めっちゃ女が多くてちょっと選択ミスでした。
まあそれから、色々見たんですがどこもしっくりこず、一軒の沖縄料理の飲み屋を発見。
沖縄料理を一切食べたことがないオレにとっては未知数の訪問でしたが、入るなり聞こえてくる三線の音色は、なんだか惹きつけるものがありました。
濃い顔のマスターが「いらっしゃいませ~」と威勢のいい声でオレを迎え入れてくれて
ここは雰囲気がいいぞって確信しました。

大体色々と歩き回っていると、居酒屋は割と「一目惚れ」がオレにとっては重要だということがわかってきました。
その店のドアを開けた瞬間の一目見た雰囲気が、好きかどうか。
それを基準にしている自分がどこかにいたんです。
それこそ、この沖縄料理屋は雰囲気がなかなかよくて、何よりそんなに混んでいないのがオレには合っていました。
カウンターに座ると奥の方に一人、置物みたいに座っているおじさんがいました。
黙って座ってちびちび酒を飲んでいました。
真っ白な髪は肩までのびていて妙に黄色いアロハシャツが似合っていました。

オレが沖縄ビールを頼んでちらちら見ていると
「兄ちゃん若いな。」
と話しかけてきました。
「沖縄には行ったことあるか?」
そう聞かれてオレは
「いや、ないです・・。」
と伝えると、めっちゃ近づいてきました。
それでオレの隣に来て
「オレが沖縄の良さを教えてやる。」
そこからはもうその人の独壇場というか・・なんというか。

自分が沖縄で育ったこと。
沖縄で仕事をしていた時の話。
お勧め隠れスポットなどひたすら話し続けられました。
オレはもううなずいていましたよ。
その沖縄居酒屋のマスターも
「ごんさんの沖縄ガイドが始まった・・。
すいませんね、付き合ってくださいよ。」
と申し訳なさそうに言っていました。

正直、仕事を始める前に出会っていたらうざいなあと感じていたと思います。
こういうおじさんいるよなあと・・・。
でも仕事を始めてからは、結構色んな人の話を聞くのも悪くないと思っていました。
ああオレって、マジで狭い世界で生きていたんだなっていうのは思ったので、割とすんなりなんでも耳に入ってくるようになっていました。
また、そのごんさんの話が面白かったんです。
色んな色の魚を捕っていた話や、エロ本を読みながら沖縄の真っ白い海に浸かっていたとか内容はどうでもいいようなものが多くて、オレをゲラゲラ笑わせてくれました。
ゴンさんは携帯も持っていない人で年齢は不詳。
推測からいってたぶん50代。
オレの父さんよりも少し若いくらいだと思いました。

それからというもの、その沖縄居酒屋はオレにとって行きつけの店になりました。
沖縄料理も美味しくて、休みの日の前には必ず飲みに行きました。
ごんさんとも仲良くなって、相変わらずくだらない話をしていました。
どんな仕事をしているのか?と聞くと、オレのことはいいんだと教えてくれないごんさん。
髪切ったらどうですか?と言えば、髪をのばしてギネスを目指しているんだと、どうでもいいこたえ。
仕事で落ち込んでいた時もごんさんと話すと何でも小さなことのように思えて、
オレを楽にしてくれるおっさんとの友情はいいものでした。

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でも、1年くらいたった時にごんさんが沖縄に帰ることになったんです。
お前には世話になったなとおそろいの黄色いアロハシャツをくれた時は
マジでいらないよと、ごんさんに泣きそうになりながら突っ返しました。
沖縄に来るときはこの連絡先に電話してくれと言われて謎の番号も渡されました。

怪しいと思ってその場で電話をかけたら
「スナックママンです。」
となぜかスナックの店にかかりました。
ごんさん、ママンって・・・と言えば、
「オレの女の店だから。沖縄に行けばオレはそこにいるぞ」
と言われました。

このおっさんはマジで最高だと思いました。
仕事は2年目も営業成績があんまりよくなくてボーナスなしのオレですが、初ボーナスが出た時は絶対に沖縄に旅行に行くと約束しました。
そして、3年目の夏に初めて念願叶って旅行に行けました。

ごんさんのいるスナックにも顔を出せました。
そこでの会話は、沖縄居酒屋での会話と変わらないような内容でした。
また次のボーナスが出たら遊びに行くと、オレはごんさんと約束して別れました。
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今時ジョータ笑顔
これはなかなか濃いキャラクターの登場だな!
会いたい人がいると、その地へ旅行に行く動機になるよな。
世代の離れた同士の友情ってのもいいもんだぜ。