俺は東京で暮らしていたけど、田舎がとても好きだった。
俺の田舎は山形県だ。
夏には必ず、田舎のじいちゃんばあちゃんの家で過ごしていた。
じいちゃんには、
「ここはお前が住んでいるところみたいに何かあるわけじゃない。自然しかないけど楽しいか?」
と遊びに行くたびに聞かれたことがあった。
だけど、俺は
「こっちで暮らしたいくらい山形が好きだ。」
と、じいちゃんにもばあちゃんにも言っていた。
本当に心から山形が好きだったんだ。
別に学校でいじめられているとかそういうこともなかったけど、じいちゃんとばあちゃんの家に遊びに行けばほっとする自分がいたんだ。
だから俺は、山形の高校に行きたかった。
でも両親は大反対。
なんで東京にはいくつもの進学校があるのに山形の高校になんか行きたいんだと怒られた。
だけど俺はどうしてもじいちゃんとばあちゃんがいる土地で高校生活を送りたかったから何とか親を説得した。
今にして思えば、そんな我が儘を許してくれるなんて随分と寛大な両親だった。
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山形の高校に通い始めてすぐに同級生から
「どこから来たんだ?」「なんでそんな都会から来たんだ?家庭の事情か?」と言われてしまった。
もちろん、
「こっちの高校に来たかったから」と素直に応えたのに聞き入れてもらえなかった。
そんなはずないだろうとすごく言われた。
そんな状況でも、俺は楽しくなっていた。
夏には虫の声が聞こえて、秋には枯れ草が触れ合う音、冬には何ともいえない銀世界。
俺は全部本気で好きだった。
だけど、都会から来た俺は少し浮いていたのか友達を作るのには時間がかかった。
唯一できたのが留年しているBだった。
Kは高校一年生をもう一度繰り返していた。
聞けば、去年はほぼ学校に来てなかったらしい。
入学当初に不良グループに目をつけられて、それを理由に学校を休むようになったっていうのはなんとなく聞いていた。
でもその不良グループが卒業したからこそ、もう一度頑張ろうと思えたと仲良くなった時に話をしてくれたんだ。
俺は最初からそいつと仲良くするつもりはなかったが、ちょうど帰り道が同じで少しだけ話をしていると意外と楽しくて、なんだかこいつは気が合うぞと思ったんだ。
それからは割と仲良くつるんでいて、夏には近くの小さな川で小学生のように遊んだんだ。
本当にあの時は何もかもが楽しくていい高校時代を送れた気がする。
でもKは常に東京への憧れを持っている男で、俺とは正反対だった。
俺みたいに東京で両親と住んでいたら、絶対にお前みたいな選択はしないと言われた。
俺は、実際に昔から住んでいたら、山形の良さをわからないのかもしれないなと思った。
俺みたいに東京を経験しているわけでもなかったら、そりゃあ東京の人混みでもなんでも、全てワクワクするのかもしれない。
だから一度夏休みに俺は東京の実家にKを連れて帰ったんだ。
Kは髪が金髪だったから、田舎のヤンキーを連れてきたなって親も最初はいい顔はしなかった。
だけど、結構人見知りしないで話しかける友達だったから、そのうちすっかり母さんとも盛り上がっていた。
東京はあいつにとっては将来の目標みたいなもので本当に楽しそうだった。
まさに俺とは真逆でKはビルや人混みを見ると目がキラキラするタイプで。
俺は自然を見ると目がキラキラするタイプ。
もう完全に違っていてそこがまた良かったのかもしれない。
俺もKに観光案内をしているうちに、どんどん楽しくなってきて。
こんなところもあったのかと、住んでいた場所とは思えないくらい、たくさんの発見もあった。
俺はこいつと東京で過ごしていれば、もうちょっと違ったのかもしれないと思った。
こんな友達と一緒に学生生活を楽しめたら山形の高校に行きたいとか言わなかったのかもしれないと思ったんだ。
それくらいKとは楽しく過ごせたので、高校3年間はかなり充実していた。
今はあいつは東京の専門学校に通っていて、俺も東京に戻ってきて大学に通っている。
(本当は山形の大学に行きたかったけど、生憎俺に合う大学が無かった)
つまり、二人とも東京にいる。
だから月に何度か一緒に遊ぶのが、本当に今の唯一の楽しみになっている。
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違うタイプの人間だけど、自然と仲良くなってしまうのってあるよな。
そういった友情はかえって壊れたりしないもんだ。
これからもずっと仲良しでいられると良いな!