社会人になって俺は色々と職場の人と飲む機会が多くなりました。
最初は先輩の話も自分のためだと聞いていましたが、何しろ自慢話が多いんです。
H先輩は、とにかくその自慢話をしたいがために俺を呼んでいるんじゃないかと思う位、月に何度かは必ず誘ってくれます。
もちろん飲み代はたまにおごってくれることがありますが、基本割り勘です。
俺にとっては、本当ちょっと煩わしい時間になっていました。
うちの父親にもそのことを伝えると、先輩の誘いを断ることは許されない、しっかり誘われる度に話を聞いてこいと言うんです。
俺も、最初は父親にH先輩のことで愚痴を言うとは思いませんでした。
でも俺自身も結構いっぱいいっぱいだったんです。
仕事で覚えることは山ほどあるのに、頻繁に飲み屋に連れていかれて、会社で今までこういうことがあった、ああいうことだあったという自慢ばかりを言う先輩。
俺はその時間を、どんどんいらないものとして、意識するようになってしまっていました。
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ある日、H先輩がいきなり俺を飲みに誘ってきました。
その日はとにかく俺は仕事のことでいっぱいいっぱいになっていたので、なんでこんな日に誘うんだとまたイライラしてたんです。
だけど、先輩の言うことだから仕方ないと思いました。
そして、居酒屋に着けば相変わらずの自慢話。
俺はもう飽き飽きしていました。
思わず、
「その話もう聞きました!」
とついつい、少し強めに言ってしまったんです。
H先輩は俺がそういう風に言うのが初めてだったので、驚いてしまいました。
だけど、俺ももう限界だったんです。
「先輩の話色々聞いたんで、今日は帰ってもいいですか?」
俺はもう、それしか思いつきませんでした。
これ以上、その場にいてもイライラするだけだったので仕方なかったんです。
だけど、先輩は帰してくれませんでした。
「確かに俺の話ばかりは聞き飽きたよな。
そろそろお前の番だな。
じゃあ、聞いてもいいか?」
そう言われました。
思わず、息をのんでしまいました。
いきなり、真剣な顔をしてH先輩が言ってくるので。
「俺の話って何をすればいいんですか?」
「なんでもいいぞ、最近不安なこととか。
これからの仕事の進め方とか。
なんでもいいんだ。
おまえはプライド高そうだからな。
誰にも相談しないタイプだろ?」
そう言って、また飲み物を頼んでいました。
確かにそうでした。
俺は、絶対に先輩にも誰にも仕事のことは言いたくなかったんです。
自分で答えを見つけるんだって。
仕事は自分との戦いだとかなんとか父親に言われてきたので、最初から誰にも相談はしないようにしていました。
だけど、それも限界は来ていました。
自分のやり方でやろうと決めていたけど、実際営業は甘い世界ではありません。
だからこそ、どうしたらいいのかもう出口のないトンネルにいる気分でした。
「相談してもいいんですか?」
「俺の自慢話散々聞いてもらったからな。
今度は俺が聞く番だ。」
そう言われて、俺はなんだかほっとしました。
それから飲み会は深夜まで続きました。
俺は酒が入っていたものの、真剣に話をして、H先輩は黙って聞いてくれました。
今考えれば、H先輩だけが俺にしつこく何度も誘ってきていたんです。
たぶん、俺から何か言うのを待っていたのかもしれません。
それから3年経ち、ようやく俺は仕事に慣れてきたような気がします。
あの時本当に話ができてよかったです。
あれから、自分の中だけで正解を探すのはよくないということを教わった気がします。
H先輩は、今は転勤で違う営業所に行ってしまいました。
だけどたまに会議があるとまた飲みに行くこともあります。
今では上司という枠を超えて、友情が芽生えているような俺はそんな気がします。
自慢話も今では素直に聞けて、仕事に役立つ内容が散りばめられていることに気が付きました。
物は考えようだと俺は本当にそう思いました。
だから、俺もあれからは今も色々と相談させてもらっています。
最初の頃より、格段とH先輩と一緒に飲む酒が美味くなったのは言うまでもありません。
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自慢話ってのは成功体験だからな。先輩は君に、その話から成功のヒントを見つけて欲しかったんだろう。
ここまで粘り強く面倒見のいい先輩なんて、なかなかいないぞ。これからも良い関係を続けていってくれ!