大学生の時に俺はブレイクダンスのサークルに入ってました。
ブレイクダンスはかなり体力を消耗するうえ練習時間も長かったため、どうしても間食をとってしまいがちです。
サークルメンバーでの飲み会なども頻繁にありました。
俺は一人暮らしだったこともありそのような生活ではバイトの収入でも追いつかず、普段の食費を削るという本末転倒な状況になっていました。
俺には同期の友人Aがいて、彼も同じブレイクダンスサークルに入っていました。
ただしAはマネージャーという立場ですので、ダンスには参加しません。
メンバーにスポーツドリンクをつくったり、タオルを渡したり、撮影をする役目です。
ところが、サークルでの同期は俺とAの二人だけだというのに、彼はあまり俺のことを心配してはくれませんでした。
先輩たちの体調はとても気遣って、練習の合間にも話しかけたりするのに、俺に対しては知らんぷりです。
俺はずっと
「コイツに嫌われてんのかな」
と思い、そのことを考えては時々落ち込んでもいました。
Aとはそういった関係でしたが、サークルのサブリーダーをやっているB先輩とは仲良くなっていきました。
B先輩は面倒見が良く、俺がお腹を空かしている様子を見ると、ちょくちょく夕ご飯を奢ってくれました。
そのお陰で、俺は経済的に苦しい時期もなんとか乗り切ることができたのです。
食事の後に俺が
「ご馳走様です! ですが食事代は必ず返します!」
と言っても、B先輩は笑いながら
「別に返さなくていいよ。その代わり、練習にちゃんと出てくれればいいから」
と、はぐらかされてしまいました。
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そんな風に日々が過ぎていき、冬休みになりました。
俺は猛烈にバイトを頑張って、まとまったお金を手に入れることができました。
サークルとバイトの両立は大変でしたが、B先輩の支えもあって俺はやり遂げることができたのです。
この頃には同じサークルだというのに、Aとはほとんど目も遭わせなくなっていました。
仲が悪いわけではないのにお互い無視しているような、不思議な関係です。
冬休みが終わる頃、俺はB先輩のところへお金を持っていきました。
「奢って貰った食事代、ほんの一部ですけど返しに来ました」
そう言って封筒を差し出すと、先輩は少し困った表情を浮かべました。
「……お前に奢った食事代、俺だけのお金じゃないんだよな」
「えっ、どういうことですか」
「実は、食べ物に困っているお前に夕飯を奢ってやってくれって、Aからお金を渡されていたんだよ。お前の食事代は俺が半分、Aが半分出していたんだ」
その話を聞いた時、俺は何が何だかわからなくなってしまいました。
俺を嫌っていたはずのAが、どうしてそんなことを……。
「あーあ。この話、Aから固く口止めされてたんだけどなぁ」
「どうしてAが俺のことをそこまで……」
「なんだよ、わからないのか? 同期のお前のことを友人としてずっと気に懸けてたからだよ」
マネージャーはメンバー全員を平等に見ないといけない。
だけど練習中に俺の世話を始めたら、きっと他のメンバーよりも贔屓にしてしまうだろう。
だから練習中は、心配にならないように俺のことをあまり見ず、その代わりこっそりと食事代を出すことで俺をフォローしようとしたのだ。
「Aにお礼を言わないと」
Aが俺のことを嫌いじゃなかった……むしろ気に懸けてくれていたことを知り、俺はそのときとても嬉しい気持ちになりました。
その後、AとB先輩ふたりに食事をご馳走することにしたのですが、そのときのAはずっと顔を真っ赤にしていました。
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影ながら支えてくれる友人っていいよね。
三人での食事は、どんな話をしたのかちょっと気になるかも。
続きのエピソードがあったら、是非聞きたいな。