俺は子供のころ喘息が酷くて、母親に水泳を習わされていました。
ですから水泳だけは自信があって、中学高校どちらも水泳部に入っていました。
そして、水泳歴もそれなりに長かった俺は高校1年の終わりにメドレーリレーの選抜選手に選ばれました。
メドレーリレーでは背泳ぎ・平泳ぎ・バタフライ・自由形の順番で4人の選手がリレーをするんです。俺は背泳ぎの選手でしたから、スタートを担当することになりました。
幸いと言いますか、運動部にありがちな選抜選手に対する先輩からの嫌がらせなどはなくて、逆に「お前の泳ぎなら安心だ!応援してるぞ!」と言ってもらえていました。
俺は学校ではおとなしい性格なんかではなくて、むしろ少し生意気で勝気なキャラだったものですから「もちろんッスよ先輩!俺がスタートで差つけていい流れつくりますからね。任せてください!」なんて大口を叩いていました。
ただ、実際はメチャクチャ緊張してたんです。
それこそ、スタートが成功すれば他の選手を引き離した状態で次にまわせるかもしれない。
けど逆に俺がスタートで失敗すれば後に続く先輩たちがどんなに速く泳いでも追いつけないほどの差ができてしまいますから。
俺は選手に選ばれてからずっと緊張しっぱなしで、とうとう大会で泳いでる途中で足をツる、なんて最悪の夢まで見てしまっていました
それでも、親にも部活の誰にも俺のメンタルが実は弱いなんて知られたくなくてみんなの前ではいつも通り生意気な自分でいました。
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誰にもばれていないと思っていたある日、練習の後Rから「今日帰りにマック寄ろうぜ。」と声をかけられました。
Rは俺の幼馴染で、中学では美術部に入っていたのに高校から「ダイエットのために」なんて言って水泳部に入っていました。
水泳初心者だから大会に出ることはあまりなかったけど毎日部活には参加してる真面目な部員ではあったんです。
そんなRと帰りにマックに行って、「なんだよ、なんか話でもあんのか?」と聞いたら
「俺の話っていうか、お前の話かな。お前さ、選抜されたことストレスになってね?」
と返されたんです。俺はばれてたことに驚きました。
「え、なんで?ストレスっつーよりワクワクしてるけど?」
なんて強がりはしましたがRはそれを聞いて少しだけ考えてから
「うん、それならまあ良いんだけどさ。なんか最近練習中焦ってるように見えたから。あと、寝不足っぽい気がして。でもまあ、気のせいなら良かった。
まあ俺、最近水泳始めたから詳しくないし偉そうなこと言えないんだけどさ。」
と言って笑いました。
俺は諦めて「そんなとこまでばれてんのかよ。……まあ、緊張くらいするわな。俺1年だし。スタートとかさ、ミスれないじゃん?」やっと弱音を吐きました。
そしたらRは「え?別にお前がミスってもまだチャンスはあるだろ?リレーって最初離されたらもう絶対追いつけないの?」なんて言い始めて。
俺はそこでハッとしました。
確かに、スタートで引き離せればその後は多少楽ですが、だからって後から逆転のチャンスがないわけではありません。Rの言う通りでした。
俺は自分で「俺がミスったら負ける」と思い込んでいました。
今考えるとそもそもその考えが傲慢で失礼な話なのですが……
とにかく俺はRのその一言で救われました。気も少し楽になって、夜もぐっすり眠れました。
そして大会当日、俺は先輩方を信じて泳ぎきりました。
結果は1位ではありませんでしたが、表彰台に上がることはできました。
俺とRはその後やりたいことができて大学は別々になりましたが社会人になった今でも交流があります。
「そういえばお前さあ、俺のことよくわかってるよな。というかよく見てるよな。……え?俺のこと好き過ぎじゃね?」
と言ってからかうとRの奴
「俺をホモみたいに言うなよ!」
とメチャクチャ怒るんです(笑)
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自分のことをよく見てくれている友人の言葉が、大きな「気づき」を与えてくれることってあるよな。
長い付き合いなら逆に、君がRに投げかける言葉も、Rの気づきに繋がっていることがあるんだと思うぜ。