俺は昔から人見知りな方でした。
高校生の時もそんなに親しい友達ができるとは思いませんでした。
だけどクラスで隣のなった男(M)がすごく話しかけてくるような男で
Mと話すようになってからは俺の高校生活は変わって行きました。
中学の時は学校から帰ると一人でゲームばっかりしていたのですが、
そのMと遊ぶようになってからはほとんど家にいることはなく、
Mと過ごすようになってから人といる心地のよさみたいなものに気がついていった気がします。
俺はそれまで「めんどくさい」が口癖でしたが、Mはそういう言葉を言うとあまりいい顔しない奴だったんです。
いつも笑ってるような奴で一緒にいると楽な男でした。
それに結構偉い男で高校の学費を親に出してもらってばかりでは申し訳ないとバイトもしていました。
俺はそのファミレスのバイトを紹介してもらって一緒にバイトも始めました。
とにかく、最初は怒られっぱなしでした。
言葉づかいから何もかもが店長には気にくわなかったらしく、思わず歯向かってしまいそうな時もあったんです。
そんな時は欠かさずMが止めに入ってくれました。
俺が冷静になるまで話を聞いてくれたりと、とにかくいい奴だったんです。
Mがきっかけでバイト仲間とも仲良くなりました。
海に行ったり、とりあえず外で遊んではバカ話をして盛り上がっていました。
青春と言えばあの頃のことをすごく思い出します。
だけどファミレスで働いて2年、高校3年生になった時のことです。
Mに彼女ができたんです。
その彼女は本当にどうしようもなくて結構二股とかもするような浮気女でした。
俺はMに何度もその子と別れるように言いました。
他の男ならともかく、そういう女がMを二股とかひどい扱いをするのが許せなかったんです。
でもその話を言うたびに、いつも温厚なMはひたすら嫌な顔をしていました。
「だけどあいつは家庭環境が悪いからついそういうことしちゃうところもあるんだよ。」
いつもそれがMの口癖でした。
家庭環境・・・
そんなの言い訳になっていいのか。
俺の大事な友達はそんな女のいうこと聞いて
なんでも許しているのが許せなかったんです。
だけどその時のMにはそれは余計のお世話というか
むしろうざかったんだと思います。
そのうちにMとはどんどん連絡しなくなって
バイトで会うくらいになっていました。
Mからつながった友達とも遊ぶことが増えていて
彼女もちのMは呼ばれなくなっていきました。
「別にあいつなんて呼ばなくてもいいよ。彼女といるだろう。」
そんな話をしてそれからMとは遊ばなくなっていました。
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高校の卒業式の日も式を終えるとすぐに俺はバイト仲間と遊びに行こうとしていました。でも最後の最後にMに声を掛けられたんです。
「もう会わないかもと思うとちょっと寂しくてさ。
俺の家、実は母子家庭なんだ・・・。
うちの母さん、夜の仕事とかもしていて言えなかったんだよ。
普通の家庭に育っているお前にはそういうこと言えなかったんだ。
俺が勝手にコンプレックス感じていただけで。
俺、結婚する。
お前が二股女って言ってた女と結婚するんだ。
お前には言っとこうと思ったんだよ。
じゃあな・・・。」
俺の返事を聞くことなく、Mは去っていきました。
俺はその時今思えば何か言えばよかったんだと思います。
気まずいはずのMから近づいてきてくれたのに
俺はあまりにもその時は子どもで
結局何も思いつかず、向き合うのを逃げました。
それからは思い出すと、その出来事自体重い感じがして思い出さないでおこうと思いながら俺は大学に進学しました。
そして3ヶ月後、俺はバイクで事故を起こしました。
車との正面衝突。
生きていたことが奇跡でした。
俺は単純骨折と腕に傷を負いました。
意識がもうろうとしている中で、最初に母親に泣いている顔が飛び込んできました。
でもなぜかその隣でもう一人泣いていたのが親父でもなく、Mでした。
「生きていてよかった。」
Mがそう言ったその一言だけ、鮮明に覚えています。
後から聞いたのですが友達から俺が事故を起こしたことを聞いたMが
急いで飛んできたと言っていました。
しっかりと意識が戻ってからはMがとにかく見舞いに来てくれました。
退院後もリハビリだと言って俺を車で連れ出してくれました。
もう会話なんてなくても一緒にいるだけで楽という存在だったあの頃にいつの間にか戻れていました。
自分でも情けない話ですが今になってMの大切さというかそういうものがようやくあの時にわかったんです。
それからもう10年経ちますが最近になって面白いカミングアウトがあったんです。
Mになんで最初に俺に高校のときに話しかけたのか聞いたところ、
中学の時からの自分と同じような顔した奴だったからだと言われました。
聞けば、Mも中学の時に母子家庭で毎日ゲームして誰とも話さない生活を送っていて
友達もいなかったらしいんです。
だけど高校では何か変わってやろうと思ってそれで俺に思いきって話しかけまくって
友達になりたかったと言ってました。
「俺も高校デビューだぞ。おまえのおかげだったな。」
そう言って笑ってました・・・。
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Mはきっと、君の顔を見て惹かれるものがあったんだろうね。それは運命なのかもしれない。
だから一度疎遠になっても、元の仲に戻ることができたんだ。