俺は中学生の時に一番仲がいい、Aという友達がいたんです。
そいつはとにかく何でもできる男でした。
スポーツも万能だし、成績も優秀、何しろ男からも慕われていて、自分自分っていうタイプじゃなくて、俺はすごくそういう意味でもAが友達っていうだけでなんだか誇らしい、嬉しい気持ちがあったんです。
ただ、絶対に恋愛の話とかは苦手で誰が好きだとか、そういうことを一切俺には言いませんでした。
本当にそれはそれでよかったのかもしれません。
自分が言わない分、冷やかしとかもなかったので俺は付き合いやすかったです。
ただ俺はいつもあいつは、きっと彼女とかもいて、絶対に人よりも何でもかんでも飛びぬけているんだという気持ちがどこかにありました。
だけどそういったことを自慢するような奴じゃないからさらにかっこよく思えたんです。
それで中学最後の夏休み。俺たちは同じ塾に通っていました。
たまに、Aが俺今日はこっちだからいつもとは違った方向に帰る時があったんです。
俺はそれを聞いて「彼女なのかな。」って勝手に思っていました。
中学生なので滅多に彼女なんて出来ないのでしょうが、俺は勝手にそう思い込む事で楽しんでいたのかもしれません。
しばらくたって塾の帰りに俺はどうしてもAの相手を見たくなりました。
ただ単に、好奇心があっただけなんですよね。
毎日、受験勉強で変わりばえしないのでこのままだと何も起こらない夏休み。
少しくらい何かやりたいと思って、その日Aを尾行することにしました。
ちょっと冒険したいという気持ちだけで、その日は受験が終わって、隠れながらAを追って行ったんです。
するとなぜかAは駅に入って電車に乗りました。
俺は家から離れていくAを見て、彼女とデートでもするのかなあと思いました。
どうしようか迷ったけど結局、俺も電車に乗ってそっとAについて行きました。
Aが下りたのは渋谷でした。そして、再び歩き始めたA。
なんだかどんどん歩く速さも速くなっていったような気がしました。
もうすぐで彼女に会えるからだ!と俺は思っていました。
そして曲がり角を曲がったところで俺はAを見失いました。
なんで?そう思って、色々と見まわしてみるといくつか店があって、そこには派手な看板のアニメショップがあったんです。
そして、ちょうどショップに入っていくAの後姿を見つけてしまいました。
俺はなんだか見てはいけないものを見てしまった気がして、Aに見つかる前にダッシュで家に帰りました。
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それからAを見る目が少し変わったのは確かです。
だけど別にAの趣味を否定するつもりはなかったので、とりあえず知らないふりをしていました。
ただたまにわざとお勧めのアニメ知ってる?と、聞いてみたりするとAは言いたそうにしながらも、「俺アニメとかあんまり見ないからなあ。」なんて言うんですよ。
だから俺は、これは「誰にも言ってはいけない秘密」なんだと思いました。
俺もその時は、俺にくらいそういうこと言って欲しいとかそんな風に思っていたけど、正直俺にも誰にも言っていない趣味があったんです。
それはひたすら、家に帰ると猫に赤ちゃん言葉で話しかけていたことです(笑)
妹には「お兄ちゃんキモイ!」と言われていましたが、その時だけは誰にも邪魔されたくなかったんです。
今思えば、俺も大人になれば大した秘密でもなんでもないことが、中学の時は自分の中では大きな秘密だったんです。
Aにとってアニメショップに行くことがそうだったのかもしれません。
俺は結局誰にもそのことは言わずに、中学生活を終えました。
Aとは今でも親友です。
当時を振り返ると、Aのそういうところを、俺だけは知っているという優越感が少しあったのかもしれません。
何もかもお互いを知っているというのも友情の形かもしれませんが、ある領域にはお互い干渉しないっていう友情も大人になっても俺は結構好きだったりするんですよね。
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隠し事をしているから親友じゃないってことはないよな。
むしろ、男は多少秘密を持っていた方が、かっこいいんだぜ。