私は中学までは地元の学校に通っていたのですが、高校受験では東京の学校に合格しました。
父親が東京に単身赴任しており、借り上げ住宅に住んでいたため、私もそこから通学することになったのです。
高校生活3年間は楽しいもので何人か友達もできましたし、自分にはもったいないほどの彼女もできました。
高校卒業後は東京の大学に進学する事を考えていたのですが、実家の色々な事情もあり、結局地元に戻って就職する事になってしまいました。
ところが、彼女の方は当たり前の様に受験に合格し、東京の大学に進学する事になります。
高校最後の春休みに、私は遠距離でもいいので付き合っていたいと思い、その事を彼女に告げました。
しかし彼女はそれを断ります。それもキツい言い方で。
私はそれにショックを受けてしまい、こっぴどく落ち込んだまま地元に帰ったのでした。
地元に帰ってすぐに、その噂を聞きつけた中学時代の友人達が家にやって来ました。
「お前、こっちで就職するんだって?」
「ったくよ、ビックリしたぜ。てっきり東京から戻ってこないもんだと思ってたからな」
「うん、家の事で色々あってね」
「あ、お前ん家はそうかもなぁ」(スミマセン。実家の事なのでぼかします)
「それよりさ、どうしたんだよ。お前顔色悪くないか?」
「そ、そうかな・・・」
3年振りに会ったと言うのに友人達には、私が沈んでいる事をすぐに気付かれてしまいました。
私は失恋の事も「色々あって」と誤魔化していたのですが、勘の鋭い一人がそれを見破ってしまいます。
「お前、女に振られたんじゃねぇの?」
「えっ・・・あの・・・」
「あーあー、マジかよ。東京の女に手を出そうとしたのか?」
「どうせモデルみたいな奴だろ。ああいうのは性格悪いんだって」
「そんなの、会ってもいないのに勝手に決めるなよ。東京の女の子は優しかったし」
思わずムキになって反論したけど、それは自分から白状するようなものでした。
会話が進むうちに、彼女がいた事や振られた事がばれてしまいます。
本当は地元の友人には内緒にしておきたかったのですが・・・。
「って、やっぱ女絡みなのか」
「まったくよー。こっちにいた時は女なんか興味無いって言ってたのに」
「い、いいじゃないか。別に・・・」
私はその時、笑うしかありませんでした。
「あ、そうそう。こっちにいた時と言えばさ・・・」
3年間の歳月は長くて、積もる話は山ほどあります。
結局その日、私達は夜まで話し込んでしまいました。
しかし彼女の事が頭から離れない私は、その間中ずっと上の空でしたが・・・。
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「おーい!いるかー?」
翌朝の4時頃、家の外から呼びかけてくる声が聞こえてきました。
それは聞き覚えのある友人達の声です。
「どうしたんだ、こんな時間に・・・」
眠い目をこすりながら、私はベッドから出ると、家の外まで行きます。
「一体なんの用?」
目の前には、さっきまで話していた面々が揃っています。
「海、行くぞ。海」
「えっ!?」
友人の一人が私の腕を引っ張ります。
更にもう一人が背中を押して、無理矢理自転車の後ろに乗せました。
「ちょっと、どうして海!?着替えて無いんだけど・・・」
「そんなのいいからいいから!」
私達の地元は海辺の町なので、海岸までは自転車で5分ほどです。
まだ太陽が昇る前の真っ暗闇の中を疾走する自転車。気がついた時には皆で防波堤の前に立っていました。
「よっしゃ走るぞ!」
「ただ走るだけじゃつまんないだろ?」
「じゃあ鬼ごっこだな」
そう言う彼らに私は腕を掴まれます。
そして、皆でがむしゃらに砂浜を走り始めました。
鬼ごっこだと言ってはいましたが、ルールなんて無い様なものです。
ただひたすら縦横無尽に走り回り、転げ回り、そして大笑い、遊び尽くします。
疲れ果てた時にはすっかり太陽が上がっていました。
海の方を見ると、漁船が一斉に海に出てくのが見えます。
私は、なんともいえない充足感を得ていました。
「すっきりしたか?」
「あっ・・・」
私の座る横にやってきた友人が私に微笑みかけます。
そこで私は初めて気付きました。
自分が失恋の事をすっかり忘れてしまっている事に。
「来て良かっただろ?」
「うん、そうだね」
友人の台詞に私は大きく頷きました。
この素晴らしい友人達と、またこの地元で一緒に過ごせるんだ。
そう思うと、旨がいっぱいになってしまいました。
この時に思わず泣いてしまったのは、まだ誰にもばれていない秘密です。
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地元の友人っていいよな。
各ライフステージでいろんな繋がりができるけど、
最後に戻る場所は地元なんだぜ!