つい先日、大学時代の友人から結婚の招待状が届いた。
俺は在学中何度もそいつに助けられた。そいつがいなかったら俺は今頃こうして定職についてすらいなかったかもしれない。
そいつ、じゃあんまりだから仮にTとする。Tとの出会いは本当に偶然だった。
俺は中学でも高校でも友達というものにあまりいい思い出がなかった。
中学時代は入っていた部活でいじめられていたし、クラスではそこに俺がいないかのようにみんな過ごしていた。
修学旅行には班決めが苦痛で結局行かなかった。
高校は少し遠かったから、同級生は殆ど知らない人たちだった。
入学したとき、すでに俺は完全コミュ障状態だったが、クラスメイトが話しかけてくれたおかげで友達グループからあぶれることはなかった。
けど、夏休みが明けると周りはみんなあか抜けて、結局俺はグループの中で浮いてしまった。
そのせいでだんだんとグループから弾かれるようになっていった。結果俺は一人で残りの高校生活を過ごすことになった。
そんな俺が大学に進学した。
もう俺は無理に友達を作ることを諦め、一人で授業を受けた。
サークルにも入らずひたすらぼっちだった。
ある日、授業で近くに座っている人とセッションをしろと指示があった。
俺の隣にいたのはTだった。Tもその授業を一人で受けていたらしく、俺と組むことになった。
俺はあまり雑談をしないでさっさと終わらせたかったのだが、Tは構わずに話しかけてきた。
「俺さあ、全然友達いなくて他にも一人で授業受けてるんだよね~。周りはみんな友達と受けてるからノート貸し借りしたり代返したりしてて羨ましいわ~。君は?今日たまたま一人?」
俺がいつも一人だとそっけなく答えるとTは「だよね~。君根暗そうだもんな~。」と言って笑った。
笑われた。
Tだってぼっちのくせに。俺は少しムッとしたが、Tはそのまま話しかけてきた。
「今日はこれで授業終わりなんだけどさ、君もこの後暇だったらカラオケ行かない?いつも一人カラオケだから寂しくてさ。」
実は俺もよく一人でカラオケに行っていた。だからその誘いに乗った。ただの気まぐれだった。カラオケでは、Tと俺のオタク趣味が合致して想像以上に盛り上がった。
それがきっかけで俺はTとよく会うようになった。
実は殆どの授業が被っていて、それこそノートの貸し借りや代返なんかもした。昼も一緒に食べた。
聞くと、Tは事情があって二年遅れで入学していた。だから、俺より二つ年上で当時既に成人していた。
それだけで俺はTが大人っぽく見えたし、実際Tは俺よりもいろんなことを考えていた。
俺が高校時代の愚痴を言ったり、それを理由に今ぼっちなことを正当化しようとしたときは同情もしてくれたし慰めてもくれたけど同時に「君は友人グループの輪からあぶれない努力をした?努力をせずにありのままの自分でいたなら、あぶれても文句言っちゃだめだよ。堂々とあぶれなきゃ。」とも言われた。
実際俺は輪に入る努力もせずに生きてきたし、そのくせみんなが俺をハブってるんだと思っていた。
反省した。それからは違う大学に通うTの友人と会ったりもしてだんだん人付き合いにも慣れていった。
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三年になって、Tとは違うゼミに入った。
できるだけTと離れたくなっかったが、自分が本当に学びたい研究分野を選ぶことにした。
Tは「お、親離れか。」なんて茶化してきたけど、俺もまあそんな気分だった。
ゼミに入ると、メンバーも少人数で固定され必然的によく話すようになった。
定期的に飲み会も開かれてそれにも参加しているうちになんと彼女ができた。
生まれて初めての彼女に俺は舞い上がり、Tにもしょっちゅう惚気話を聞かせた。
そのうちTにも彼女ができてダブルデートもした。
四人とも仲が良く順調そうに見えた。
が、ある日俺の彼女の浮気が発覚した。しかも相手は同じゼミのメンバーで、むしろそっちがゼミ公認のカップルだった。
ゼミ内で俺は彼氏持ちの女にちょっかいを出したと誤解を受け、彼女と別れたショックもあって大学に行かなくなった。
もちろん就活もしていなかった。TやTの彼女が心配して連絡をくれたけど、それには殆ど返事をせずに毎日自分の部屋で過ごした。
これ以上休んだらいよいよ進級は難しいぞ、という時期になったある日、Tが家に来た。
せめて卒業しようと説得するTだったが、俺はもうあのゼミには行けないと訴えた。
あのメンバーの中に残るのは恥ずかしかったし気まずかった。
そしたら、Tから元カノとその彼氏が転ゼミしたと教えられた。
俺が大学に行かなくなってからTの彼女がゼミ内にいた友人と話して誤解を解いてくれたらしい。
そしたら逆に元カノたちがゼミに居づらくなって四年からは違うゼミに移動することが決まったらしい。
それを聞いてもウジウジしていた俺にTは「ここがターニングポイントだと思うよ。」と一言だけ残して帰っていった。
俺は次の週、大学に行くことにした。
Tの一言が忘れられなかった。
ここで行かないと俺は一生部屋から出られないと思ったから。
結局、Tの言っていた通りゼミ内はいつも通りで、誤解していたメンバーから謝罪はあったものの気まずいなんてことはなかった。
Tの彼女にもお礼を言った。それから俺は就活も始めた。Tと面接練習もして、大企業ではないけど希望職種で内定も貰った。大学も無事に卒業できたし、就職先にTはいないけどやっていけている。
そんなTから結婚式の招待状が届いた。婚約者はもちろん大学時代に俺のことを助けてくれたTの彼女だ。
しかも、俺に友人代表のスピーチをしてほしいんだと。俺でいいのかな。
俺、何言うかわかんねえぞ。本当におめでとう。あと、ありがとう。
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Tの言葉がなかったら、君は今でも引き籠もりだったかもしれないね。
失恋という一時の苦しみは味わったけど、そのお陰で「一生の友人」の存在を強く認識することができたんだな。